松山の中心部からおよそ30分。砥部焼の窯元が集まる砥部陶街道の入り口近くまで車を走らせると「砥部観光センター炎の里」の大きな建物が見えてきます。中に入るとフロアの端から端まで並ぶ砥部焼の数々。ここでは約70軒もの窯元の作品を手に取ることができます。
白く艶やかな磁器をつくり出す千山窯
千山窯が大きなギャラリーや体験施設を備えた観光センターを併設したのは、高度経済成長期真っ只中の昭和42年でした。以来、焼き物の里の玄関口として砥部焼を作りながら魅力の発信にも力を入れています。
千山窯のうつわは、白く艶やかな表面に藍色の模様が描かれています。絵付は仕上げの本焼き前に、職人によって一つ一つ丁寧におこなわれます。白地に藍の唐草文様。砥部焼といえばこのデザインをイメージする人も多いのではないでしょうか。しかしそれぞれの作品を見てみると、実は藍色の濃淡や紋様の描き方に窯元の個性がよく表れています。
「絵の具に泥呉須、筆はつけたて。うちのやり方です」と話してくれたのは工場長の宮内真之助さん。泥呉須とは、呉須という絵付の顔料に焼いた土を混ぜたもの。呉須のレシピは窯元ごとにあり、独自の色味を出しています。千山窯の呉須はやや淡い藍色。力強い筆の走りの中に、凛とした軽やかさを感じます。筆に呉須をつけて、手早く描き切る――。この古くから続く技法により、美しい白磁に動きのある表現が生まれていきます。
工場長の宮内さんはこの道20年を超える職人です。神奈川県で生まれ育ち、新たな仕事を考えていたところ親戚の誘いをきっかけに砥部焼と出合いました。千山窯は現在8名の職人が分業して焼き物づくりに携わっています。仕事の肝はまず担当する工程に集中すること、そして次の職人に良い引き継ぎができるよう適切なペースで仕上げること。換気扇の音が響き渡る作業場は静かな一体感に包まれていました。
日々の暮らしに馴染みやすいうつわ
宮内さんに砥部焼の良さを聞いてみると「日常で扱いやすいところ」とのこと。夫婦喧嘩で投げても割れないという例えから「喧嘩器」とも呼ばれる砥部焼。その丈夫さから大手企業の社員食堂などからも長年引き合いがあります。「まずは気軽に手に取って日常で活用してもらいたいです。当たり前の仕事をきっちりこなす中で表れる味をぜひ楽しんでほしい」。その”当たり前”という言葉からは、これまで長い時間をかけて焼き物と向き合ってきた誇りが伝わってきます。暮らしに馴染む爽やかな藍色模様の白磁。そんな涼しげな器には、つくり手たちの熱い想いが込められていました。
砥部焼観光センター炎の里
愛媛県伊予郡砥部町千足359
オンラインストアhttps://shop.tobeyaki.co.jp